すっきり解決! 人事と経理の手続きガイド

退職の場合の留意点(解雇の禁止)

 退職の手続きで特に気をつけなければならないのは、法律上、事業主の一方的な意思で従業員を退職させること、すなわち解雇が非常に難しいということです。退職は、@契約期間満了や定年、懲戒免職のように就業規則上の条件にあてはまる場合か、A従業員の自己都合による場合でなければ法的に成立しません。したがって、解雇する場合には、その従業員を説得しなければなりません。
 法律上も、「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして無効とする」と定められています。(労働契約法第16条) さらに、@労働災害による療養のため休業中の労働者と、A産前産後の休業中の女性に対しては、休業後30日間を含めて、事業主の意思による労働契約の解除は禁止されています。(労働基準法第19条)

 

 なお、解雇にはいろいろな理由があると思います。従業員に非がある場合や、経営上の理由によって従業員を削減せざるを得ないこともあります。経営上の理由で従業員を削減することを「整理解雇」といいますが、判例上、整理解雇が認められるのは、就業規則上の条件をクリアし、かつ次の4要件を満たしている場合とされています。

  1. 人員整理の必要性が認められること
  2. 役員報酬削減、新規雇用の抑制など、解雇を回避する経営努力がなされ、整理解雇がやむをえないと判断されること
  3. 解雇される従業員の選定基準が合理的で、手続きが公平であること
  4. 手続きの妥当性(とくに従業員への説明義務)を満たしていること

 

 

退職の手続き

 従業員が退職する場合(上記の条件を満たしていることが前提となります)の手続きは、@労働基準法の手続き、A雇用保険の手続き、B社会保険の手続き、C所得税法の手続き、D住民税の手続きがあります。

 

 

  • 労働基準法の手続き

項目

内容

解雇予告

 解雇の場合は、上記の条件を満たした場合でも、30日前までに解雇予告をするか、解雇予告手当を支払わなければなりません。
 ただし次の場合は必要はありません。(労働基準法第20条、第21条)
   

 

解雇予告等の必要がない場合

注意点

アルバイト

日雇いで雇っている場合 1箇月を超えて引き続き使用されている場合は、解雇予告等が必要。
契約期間が満了する場合(ただし契約期間2ヶ月以内に限る) 当初の契約期間を超えて引き続き使用されている場合は、解雇予告等が必要。

パート

契約期間が満了する場合(ただし契約期間2ヶ月以内に限る) 当初の契約期間を超えて引き続き使用されている場合は、解雇予告等が必要。

正社員

試用社員で、入社後14日以内の場合

 

給与等の支払い時期

 退職時までの給与等や退職金、社内預金などは、通常は就業規則で定める支払日までに払うこととなります。
  ただし、退職金以外については、労働者(死亡退職の場合は相続人)から請求があった場合は、7日以内に支払わなければなりません。(労働基準法第23条)

退職証明

 労働者が退職証明書を請求した場合、使用者は遅滞なくこれを交付しなければなりません。
  退職証明書には次の事項を記載しますが、労働者の請求しない事項は記載してはいけません。(労働基準法第22条)
  @使用期間、A業務の種類、Bその事業における地位、C賃金、D退職の事由(解雇の場合はその理由を含む)

 

  • 雇用保険の手続き

 従業員が退職した場合、失業手当を受けるために離職票を交付する必要があります。このため、職安に「雇用保険被保険者資格喪失届」と「雇用保険被保険者離職証明書」を提出して離職票を受け取り、退職者に渡します。

届出書類 届出が必要とされる場合 提出先 提出期限 添付書類

雇用保険被保険者資格喪失届

雇用保険の被保険者であった者が離職したとき 事業所管轄の職安 離職日の翌日から10日以内

・雇用保険適用事業所台帳

・雇用保険被保険者証

・賃金台帳

雇用保険被保険者離職証明書

同上(※1)

受給期間延長申請書

・退職後すぐには働けない場合(病気やケガ、出産、育児)

・定年退職ですぐには求人の申込みをしない場合

住所地管轄の職安(従業員本人が申請) 働くことができなくなった期間が30日を超えた日から1カ月以内

・離職票または受給資格者証

・医師の診断書等

  1. 離職する従業員が離職票の交付を希望しないときは、この届出を省略できます(離職日に59歳以上の従業員は省略できません)。
  • 社会保険の手続き

 

 従業員が退職した場合には、健康保険被保険者証、被扶養者証を回収して年金事務所等に返却します。
 さらに、退職者は退職後2年間に限り、引き続き社会保険の被保険者となることができますから、この手続きをする場合には、退職者にこの手続きについて助言します。通常、退職者が他の家族の被扶養者とならない場合で、市町村の運営する国民健康保険に加入するより保険料が割安な場合が該当します。 
 また、定年退職などで退職者本人の年金の受給権が生ずる場合には、老齢年金の裁定請求についても助言します。

届出書類

届出が必要とされる場合

提出先

提出期限

添付書類

健康保険・厚生年金保険被保険者資格喪失届

社会保険の被保険者であった者が退職した場合 事業所管轄の年金事務所または健康保険組合 退職した日の翌日から5日以内 ・健康保険被保険者証(被扶養者証も含む、注1)

健康保険被保険者証回収不能届

健康保険被保険者証が回収できないとき 同上

健康保険任意継続被保険者資格取得申請書

2ヶ月以上勤務した退職者が、退職後引き続き健康保険の被保険者となることを希望する場合 住所地管轄の協会けんぽ支部または健康保険組合(従業員本人が申請) 退職した日の翌日から20日以内 従前の健康保険証の写しまたは資格喪失確認通知書の写し

健康保険被扶養者(異動)届

上記任意継続をする場合で、被扶養者がいる場合 同上 被扶養者の在学証明書又は住民税非課税証明書その他必要書類

国民年金・厚生年金保険老齢給付裁定請求書

退職者本人の年金の受給権が生ずる場合 住所地管轄の年金事務所(従業員本人が請求) 受給権が生じてから5年以内

・年金手帳
・住民票
・その他必要書類

  1. 高齢受給者証、特定疾病療養受領証、健康保険限度額適用認定証、限度額適用・標準負担額減額認定証があるときは、これも一緒に提出します。

 

  • 所得税の手続き

 

 従業員が退職した場合の所得税の手続きは、次のとおりです。

手続き

内容

留意事項

給与からの源泉徴収

 最終の給与・賞与から、通常の源泉徴収を行って翌月10日までに納付します。原則として年末調整は行いません。

最終の給与・賞与が12月に支払われる場合等は、年末調整は行います。

退職金からの源泉徴収

 退職金から源泉徴収を行って、翌月10日までに納付します。

退職金については、住民税の特別徴収もしますから、注意してください。

源泉徴収票の本人交付

 給与・賞与の源泉徴収票は翌年1月末までに、退職金の源泉徴収票は退職後1カ月以内に、本人に交付します。

源泉徴収票の税務署提出

 給与・賞与の源泉徴収票は翌年1月末までに税務署に提出します。退職金の源泉徴収票は、役員が退職した場合を除き、原則として提出の必要はありません。

  • 住民税の手続き

 

 従業員が退職した場合の住民税の手続きは、次のとおりです。

手続き

内容

留意事項

給与からの特別徴収

 6月〜12月の間に退職した場合で、従業員本人から残額の一括徴収の希望がある場合には、翌年5月までの未徴収の住民税を一括徴収します。

 1月〜5月の間に退職した場合には、従業員本人の意思に係わりなく、5月までの未徴収の住民税を一括徴収します。

 

 いずれの場合も、徴収額は翌月10日までに、退職者本人のその年1月1日の住所所在地の市町村に納付します。

一括徴収する場合で給与から徴収不足の場合、退職金から徴収できます。

 また、一括徴収しなかった場合、できなかった場合には、その旨を退職者本人の住所所在地の市町村に報告します。

退職金からの源泉徴収

 退職金には、住民税が課税されます。特別徴収を行って、翌月10日までに、退職者本人のその年1月1日の住所所在地の市町村に納付します。

月例の住民税の納付書の裏面に、申告書があります。

市町村への申告

 各市町村から送られてきた住民税の納付書に、「給与支払報告特別徴収に係る給与所得者異動届出書」がありますから、これに必要事項を記入して退職者本人のその年1月1日の住所所在地の市町村に送付します。